「FL比率は55%で適正範囲なのに、なぜか利益が残らない…」
こんな相談を受けることが、最近特に増えています。食材原価も人件費も適切に管理している。経営の教科書通りにやっているはずなのに、月末に通帳を見ると残高はほとんど増えていない。むしろ、繁忙期なのに資金繰りが苦しくなることさえある。
中小企業診断士として飲食店の経営支援をしてきた中で、このような「隠れた赤字体質」の店舗には、ある共通点があります。それが「家賃負担の重さ」です。
本記事では、多くの飲食店経営者が見落としがちな「FLR比率」について、なぜこの指標が重要なのか、どう活用すべきなのかを、実際の事例を交えながら詳しく解説していきます。
FL比率だけでは見えない「利益が出ない構造」


まずは事例をご紹介します。
神奈川県でベーカリーショップを経営するAさんは、真面目で経営指標についても基礎知識を持っていました。
開業から2年、月商は安定して150万円。FL比率は54%で、業界標準からすれば優秀な数値です。しかし、Bさんの悩みは深刻でした。
「先生、うちの店は数字的には問題ないはずなんです。食材原価は30%、人件費は24%。FL比率は54%でテキスト通り。でも全然利益が出ないんです。自分の給料は月20万円も取れていない。何か見落としているんでしょうか?」
Bさんの損益計算書を見せていただいて、すぐに原因が分かりました。家賃が月30万円。売上対比で20%も占めていたのです。
これは飲食店としては明らかに高すぎる水準です。FL比率がどれだけ適正でも、家賃負担が重ければ利益は出ません。Aさんのケースでは、まさにこの「家賃」が足を引っ張っていたのです。
FLR比率とは何か?なぜ重要なのか


FLR比率とは、FL比率に「R(Rent:賃借料)」を加えた経営指標です。
FLR比率の計算式:
FLR比率(%) = (食材原価 + 人件費 + 家賃) ÷ 売上高 × 100
より正確には、家賃だけでなく以下の項目を含めます。
- 店舗賃借料(家賃)
- 共益費・管理費
- 駐車場代(店舗用)
- 地代(土地を借りている場合)
なぜ家賃を分けて管理するのか
食材原価や人件費は、工夫次第で調整可能な「変動費」です。売上が落ちれば仕入れを減らせますし、スタッフのシフトも調整できます。
一方、家賃は契約期間中は変えられない「固定費」です。売上が半分になっても、満席でも、毎月同じ金額を支払わなければなりません。
この性質の違いがあるため、家賃だけを独立して管理し、「構造的な収益性」を見極める必要があるのです。FLR比率が高すぎる店舗は、どんなに日々の努力をしても、根本的に利益が出にくい構造になっています。
FL比率とFLR比率の決定的な違い
それでは以下の居酒屋の例を比較してみましょう。
C店(郊外型・ロードサイド)
- 月商:300万円
- FL比率:55%(食材原価32% + 人件費23%)
- 家賃:18万円(売上比6%)
- FLR比率:61%
- 営業利益:約40万円(利益率13%)
D店(都心繁華街)
- 月商:300万円
- FL比率:53%(食材原価30% + 人件費23%)
- 家賃:60万円(売上比20%)
- FLR比率:73%
- 営業利益:約10万円(利益率3%)
同じ月商300万円でも、FLR比率の違いで営業利益に4倍の差が生まれています。C店は家賃負担が軽く、売上の変動にも耐えられる余裕がありますが、D店は家賃が重く、少しでも売上が落ちれば赤字転落のリスクがあります。
FL比率だけを見ていては、この構造的な違いを見逃してしまうのです。
FLR比率の理想値と業態別の目安
では、適正なFLR比率とはどれくらいなのでしょうか。
一般的な目標値は70%以下
飲食業界全体で見ると、健全経営の目安はFLR比率70%以下とされています。
この70%という数字には明確な理由があります。FLRの3つのコスト以外にも、飲食店には以下のような経費が必要です。
- 水道光熱費(売上の5〜8%)
- 販促費・広告費(売上の3〜5%)
- 消耗品費(売上の2〜3%)
- 修繕費・保険料など(売上の2〜4%)
- 減価償却費(売上の2〜5%)
これらを合計すると、売上の15〜25%程度が必要です。FLR比率が70%の場合、残りは30%。ここから上記の経費を差し引くと、営業利益として5〜15%程度が残る計算になります。
逆に、FLR比率が75%を超えると、他の経費を支払った後にほとんど利益が残らない、または赤字になってしまいます。
業態別FLR比率の目安
立地条件や業態により、適正なFLR比率は変わってきます。
カフェ・喫茶店:65〜70%
- FL比率:50〜55%
- 家賃比率:10〜15%
- 特徴:回転率重視、客単価が低いため家賃負担に敏感
ラーメン店・うどん店:65〜72%
- FL比率:55〜60%
- 家賃比率:8〜12%
- 特徴:高回転率で家賃を薄められる、郊外立地も可能
居酒屋・ダイニングバー:68〜73%
- FL比率:50〜55%
- 家賃比率:12〜18%
- 特徴:客単価が高く、多少の家賃負担にも耐えられる
高級レストラン・フレンチ:70〜75%
- FL比率:55〜60%
- 家賃比率:12〜15%
- 特徴:客単価が高く、ブランディング重視の立地が必要
ファストフード・テイクアウト:60〜68%
- FL比率:50〜58%
- 家賃比率:8〜12%
- 特徴:高回転・低単価モデル、家賃比率を抑える必要
ここで重要なのは、「業態ごとに許容できる家賃比率が違う」という点です。客単価や回転率によって、支払える家賃の上限が変わってくるのです。
家賃負担が重い店舗の5つの特徴


私の経験上、家賃負担で苦しんでいる飲食店には、いくつかの共通パターンがあります。
特徴1:売上対比で家賃が15%を超えている
最も分かりやすい基準は、家賃が売上の何%を占めているかです。
一般的に、飲食店の家賃比率は売上の10%以下が理想とされています。15%を超えると、かなり厳しい経営を強いられます。20%を超えている場合は、構造的に利益が出にくい状態と言えるでしょう。
特徴2:賃料回収期間が長すぎる
「賃料回収期間」とは、1日の売上で何日分の家賃を回収できるかを示す指標です。
賃料回収期間 = 月間家賃 ÷ 1日平均売上
例えば、月商300万円(1日平均10万円)で家賃40万円の場合: 40万円 ÷ 10万円 = 4日
つまり、4日間の売上で1ヶ月分の家賃を払える計算です。
理想的な賃料回収期間は3〜4日と言われています。5日を超えると家賃負担が重く、7日以上だと危険水域です。
特徴3:坪単価が高すぎる立地に出店している
物件を選ぶ際、多くの経営者が「この立地なら集客できる」と考えて、坪単価の高い物件を選びがちです。
しかし、坪単価と集客力は必ずしも比例しません。特に、以下のような立地は要注意です:
- 主要駅前の一等地(坪単価3万円以上)
- 大型商業施設内(賃料+売上歩合方式)
- 観光地の目抜き通り
- オフィス街の一等地
これらの立地は確かに人通りは多いですが、その分競合も多く、賃料が高すぎて利益が残らないケースが頻発しています。
特徴4:店舗面積が適正でない
「広い店舗の方が儲かる」と考える経営者は多いですが、これも誤解です。
広すぎる店舗は、以下の問題を生みます。
- 家賃が高くなる
- 光熱費が増える
- 清掃の手間が増える
- 満席に見えない(客が入りにくい)
- 必要スタッフ数が増える
逆に、適切な広さの店舗では、回転率を上げることで売上を最大化できます。
特徴5:売上予測が甘かった
最も多い失敗パターンが、出店時の売上予測と実際の乖離です。
「このエリアなら月商500万円はいける」と予測して家賃70万円の物件に出店したものの、実際の売上は350万円止まり。家賃比率は20%になってしまい、当初計画の14%を大きく上回る…このような事例は珍しくありません。
売上予測は、どうしても楽観的になりがちです。特に初めての出店では、「自分の店は繁盛する」という希望的観測が入り込みます。
出店判断では、予測売上の70〜80%でもFLR比率が適正範囲に収まるかを検証すべきです。この安全マージンを取らないと、予測が外れた時に一気に経営が苦しくなります。
既存店舗でFLR比率を改善する7つの方法


「すでに出店してしまった。今から立地は変えられない。どうすればいいのか?」
これは多くの経営者が抱える悩みです。既存店舗でFLR比率を改善する現実的な方法を見ていきましょう。
方法1:家賃交渉(賃料減額交渉)
意外と知られていませんが、家賃は交渉可能です。
特に以下のような状況では、大家さんも減額に応じやすくなります。
- 契約更新のタイミング
- 周辺の家賃相場が下がっている
- 近隣に空室が増えている
- 長期間の入居実績がある
- 店舗の状態を良好に保っている
交渉のポイント
- 決算書など経営状況を示す資料を準備
- 周辺相場のデータを収集
- 「続けたいが、この家賃では厳しい」と誠実に伝える
- 退去をちらつかせるのではなく、WIN-WINを目指す
方法2:営業時間の見直しによる実質的な家賃比率改善
家賃自体を下げられなくても、営業時間を延長して売上を増やせば、相対的に家賃比率は下がります。
検討すべき時間帯:
- モーニング営業(カフェ、喫茶店)
- ランチ営業(ディナーのみの店)
- アイドルタイム営業(14〜17時)
- 深夜営業(24時以降)
ただし、営業時間延長は人件費や光熱費の増加も伴います。時間帯別の採算性を慎重に見極める必要があります。
方法3:テイクアウト・デリバリーの追加
店内飲食だけでなく、テイクアウトやデリバリーを始めることで、同じ家賃で売上を増やせます。
コロナ禍をきっかけに、多くの飲食店がこの方法で家賃比率を改善しました。
J店(洋食店)の事例
- 従来:店内のみ、月商280万円、家賃42万円(15%)
- テイクアウト導入後:月商350万円、家賃42万円(12%)
テイクアウトは人件費も抑えられるため、FLR比率全体の改善につながります。
方法4:客単価アップ戦略
売上を増やす最も直接的な方法は、客単価を上げることです。
効果的な施策:
- プレミアムメニューの追加
- セットメニューのアップセル
- ドリンクの提案強化
- コース料理の訴求
- 季節の高単価メニュー展開
客単価が10%上がれば、客数が同じでも売上は10%増。それだけで家賃比率は改善します。
方法5:回転率の向上
同じ席数でも、回転率が上がれば売上は増えます。
回転率向上の施策:
- オペレーションの効率化
- 提供スピードの改善
- 予約管理の最適化
- ピークタイムの事前仕込み強化
- 席の配置見直し
方法6:サブリース・間貸しの検討
店舗スペースの一部を他の事業者に貸すことで、実質的な家賃負担を減らす方法もあります。
具体例:
- 朝の時間帯をパン屋に貸す
- 昼間をカフェ営業の事業者に貸す
- 店内の一角を雑貨販売スペースとして貸す
- キッチンを他の飲食店とシェアする
方法7:移転の決断
最終手段ですが、移転も選択肢の一つです。
家賃負担が重すぎて構造的に利益が出ない場合、早めに移転を決断した方が、結果的に事業継続できる可能性が高まります。
移転を検討すべきタイミング:
- 家賃比率が18%以上で改善の見込みがない
- 賃料減額交渉が決裂した
- 立地の商圏特性が変化した(オフィスビルの撤退など)
- 契約更新の時期が近づいている
新規出店時のFLR比率シミュレーション


これから出店を考えている方に向けて、FLR比率を使った事業計画の立て方を解説します。
シミュレーションの基本手順
新規出店時は、以下の手順でシミュレーションを行います。
ステップ1:売上予測を立てる
- 商圏分析に基づく客数予測
- 客単価の設定
- 回転率の想定
- 月商の算出
ステップ2:FL比率を設定する
- 業態に応じた食材原価率
- 必要スタッフ数から人件費を算出
- FL比率を計算
ステップ3:許容可能な家賃を逆算する
- 目標FLR比率(70%以下)を設定
- FLR比率 – FL比率 = 許容家賃比率
- 許容家賃比率 × 予測売上 = 許容家賃額
具体的なシミュレーション例
新規でカフェを出店するL氏の事例で見てみましょう。
事業計画の前提:
- 業態:カフェ
- 座席数:30席
- 客単価:1,200円
- 営業時間:10〜20時
- 想定客数:1日80人
売上予測: 1,200円 × 80人 × 25日 = 月商240万円
FL比率の設定:
- 食材原価率:28%(67万円)
- 人件費:正社員1名+アルバイト3名 = 52万円(21.7%)
- FL比率:49.7%
許容家賃の算出: 目標FLR比率を68%とすると、 68% – 49.7% = 18.3%が許容家賃比率
240万円 × 18.3% = 43.9万円
つまり、月44万円までが許容範囲です。
さらに安全マージンを考慮: 売上が予測の75%になる可能性を想定 240万円 × 0.75 = 180万円
180万円で計算すると、 180万円 × 18.3% = 32.9万円
結論:月33万円以下の物件を選ぶべき
このように、FLR比率から逆算することで、客観的な家賃の上限が見えてきます。
居抜き物件とスケルトンの判断基準
出店時によく悩むのが、居抜き物件とスケルトンのどちらを選ぶかです。
居抜き物件のメリット・デメリット:
メリット:
- 初期投資が少ない(500〜1,500万円程度)
- 開業までの期間が短い
- 設備が揃っている
デメリット:
- 前店舗のイメージが残る
- 設備が古い場合がある
- 自由なレイアウトにできない
スケルトンのメリット・デメリット:
メリット:
- 理想の店舗デザインが可能
- 全て新品設備
- ブランディングしやすい
デメリット:
- 初期投資が大きい(1,500〜3,000万円以上)
- 開業まで時間がかかる
- 投資回収期間が長い
FLR比率の観点からは、初期投資の少ない居抜き物件の方が有利です。初期投資が少ない分、減価償却費も少なく済み、より早く黒字化できます。
FLR比率だけでは測れない「見えないコスト」


ここまでFLR比率の重要性を説明してきましたが、実は数字に表れない「見えないコスト」も存在します。
立地による集客力の差
家賃が安くても、集客に苦労する立地では、広告宣販費が余計にかかります。
駅前の物件で家賃50万円、広告費5万円の店舗と、郊外の物件で家賃25万円、広告費20万円の店舗では、トータルコストは同じになってしまいます。
従業員の通勤負担
駅から遠い物件、公共交通機関のない立地では、スタッフの確保が難しくなります。結果的に時給を上げざるを得ず、人件費が増加します。
メンテナンスコスト
古い物件は家賃が安い反面、修繕費がかさみます。空調、給排水、電気設備などのトラブルで、予期せぬ出費が発生することも。
オーナーとの関係性
良好な関係を築けるオーナーの物件では、困った時に相談できたり、小規模な修繕を負担してくれたりすることがあります。これは金額に換算できない価値です。
ブランディングへの影響
高級店を目指すなら、それなりの立地と雰囲気が必要です。家賃を抑えすぎて安っぽい印象になれば、客単価を上げられません。
FLR比率は重要な指標ですが、これだけで判断するのではなく、総合的な視点が必要です。
まとめ:FLR比率で飲食店の「本当の収益力」を見極める
ここまで、FLR比率について詳しく解説してきました。最後に重要なポイントをまとめます。
FLR比率管理の重要ポイント:
- FL比率が適正でも利益が出ないなら、FLR比率を確認する
- 目標はFLR比率70%以下(業態により調整)
- 家賃は売上の10%以下が理想、15%以上は危険水域
- 賃料回収期間は3〜4日が適正、7日以上は要注意
- 出店時は予測売上の70〜80%でシミュレーションする
- 「一等地」より「適正家賃の二等地」を戦略的に選ぶ
- 既存店でも家賃交渉、売上増施策でFLR改善は可能
FL比率だけを見ていても、家賃負担の重さは見えてきません。FLR比率という視点を持つことで、飲食店の「本当の収益構造」が見えてきます。
特に、これから出店を考えている方は、FLR比率から逆算して「支払える家賃の上限」を明確にしてください。この一手間が、その後の経営を大きく左右します。
既に出店済みの方も、まずは自店舗のFLR比率を計算してみてください。もし70%を超えているなら、今すぐ改善策を検討すべきです。
「売上は悪くないのに、なぜか利益が出ない…」
その答えは、FLR比率の中に隠れているかもしれません。
飲食店の採算構造を専門家と一緒に見直しませんか?
FLR比率の改善について、本記事では基本的な考え方と実践方法をお伝えしましたが、実際の店舗では個別の状況に応じた戦略が必要です。
- 「うちの店のFLR比率は適正なのか知りたい」
- 「家賃が高いのは分かっているが、どう改善すればいいか分からない」
- 「新規出店を考えているが、この物件で大丈夫か不安」
- 「数値管理の仕組みを作りたい」
こうしたお悩みをお持ちの経営者様に、私たちは中小企業診断士として、貴店の実情に合わせた経営改善プランをご提案しています。
無料経営診断では以下のことが分かります:
- 貴店の現在のFLR比率と業界内での位置づけ
- 家賃負担の適正性評価
- 具体的な改善余地の洗い出し
- 優先的に取り組むべき施策の提案
初回相談は無料で承っております。まずはお気軽にお問い合わせください。数字で経営を「見える化」し、利益の出る強い店舗づくりを一緒に進めていきましょう。
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この記事が、あなたの飲食店経営に新たな視点を与え、収益改善のきっかけになれば幸いです。FLR比率を味方につけて、持続可能な経営を実現していきましょう。


